ハラスメント対策、事業主は具体的に何をすればいいのか―13の措置義務を一覧表で整理
前回の記事では、この10月1日(令和8年10月1日)からカスタマーハラスメント対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化され、事業主に防止措置が義務付けられるハラスメントが大きく分けて5つになる、というお話をしました。今回はその続編として、「では事業主は具体的に何をしなければならないのか」を整理します。
厚生労働省のパンフレット「事業主が講ずべきハラスメント対策」では、厚生労働大臣の指針に定められた「事業主が雇用管理上講ずべき措置」として、1から13までの取り組みが示されています。この1から13は、実施が「望ましい」とされる任意の取り組みではなく、法律上の措置義務です。事業主は必ず講じなければなりません。なお、派遣労働者に対しては、派遣元だけでなく派遣先の事業主も措置を講じる必要がある点にも注意が必要です。
措置義務の一覧表(どのハラスメントに何が必要か)
13の措置義務がどのハラスメントに適用されるのかを、一覧表にまとめました。パンフレット24ページの表をもとに、縦軸に措置義務、横軸に5つのハラスメントを置いて整理し直したものです。
| 項目 | 措置義務(簡単な説明) | パワハラ | カスハラ | セクハラ | 求職者等セクハラ | 妊娠・出産等/育児・介護 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ハラスメントの内容・方針等の明確化と周知・啓発(就業規則等に方針を規定し、研修等で周知する) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 2 | 行為者への厳正な対処方針・内容の規定化と周知・啓発(懲戒規定を定めて周知する。カスハラは「対処の内容の周知・啓発」) | ○※2-1 | ○※2-2 | ○※2-1 | ○※2-1 | ○※2-1 |
| 3 | 求職活動等に関するルールの明確化と周知・啓発(面談の時間・場所・体制等のルールを定め、労働者と求職者等に周知する) | - | - | - | ○ | - |
| 4 | 相談窓口の設置と周知(担当者を定め、実質的に対応できる窓口を整備する) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 5 | 相談に対する適切な対応(該当か微妙な場合も含め広く相談に応じる体制をつくる) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 6 | 事実関係の迅速かつ正確な確認(相談者・行為者・第三者から迅速に事実確認する) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 7 | 被害者に対する適正な配慮の措置(配置転換、行為者の謝罪、不利益の回復、メンタルヘルス対応等) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 8 | 行為者に対する適正な措置(懲戒規定等に基づく処分、関係改善への援助等) | ○ | - | ○ | ○ | ○ |
| 9 | 再発防止措置(方針の再周知、研修の再実施等。事実が確認できなかった場合も実施) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 10 | 対応の実効性を確保するための抑止措置(特に悪質なカスハラへの対処方針の策定と体制整備) | - | ○ | - | - | - |
| 11 | 当事者等のプライバシー保護の措置と周知(相談者・行為者等の情報を守る仕組みと周知) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 12 | 相談等を理由とする不利益取扱いの禁止の定めと周知・啓発(相談しても解雇等の不利益を受けない旨を規定し周知する) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 13 | 業務体制の整備など実情に応じた必要な措置(制度利用者の周囲への業務の偏りを軽減する等、原因・背景の解消) | - | - | - | - | ○ |
※2-1は「行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発」、2-2は「カスタマーハラスメントへの対処の内容の周知・啓発」を指します。
こうして並べてみると、1・2・4〜7・9・11・12の10項目はすべてのハラスメントに共通で、3(求職者等セクハラ)、8(カスハラ以外)、10(カスハラ)、13(妊娠・出産等/育児・介護)だけが特定のハラスメント固有の措置だと分かります。つまり、共通の10項目を軸に体制を組み、そこに固有の措置を上乗せしていくのが実務上の進め方になります。
13の措置義務は「4つの柱」で理解
1から13は数が多く見えますが、指針の構造としては4つの柱に整理できます。柱ごとに順番に見ていきます。
柱1:事業主の方針等の明確化と周知・啓発(1〜3)
最初の柱は、会社としての姿勢を明文化して社内に浸透させることです。
1は、ハラスメントの内容と「ハラスメントを行ってはならない」という事業主の方針を明確にし、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。具体的には、就業規則その他服務規律を定めた文書への方針の規定、社内報やパンフレットでの配付、研修・講習の実施などが取組例として挙げられています。カスタマーハラスメントについては少し毛色が違い、「カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する」という方針を明確にして周知します。トップメッセージとして社内に発信することも取組例とされています。
2は、行為者への対処です。カスハラ以外のハラスメントでは、行為者を厳正に対処する旨の方針と対処の内容を就業規則等に規定し、周知・啓発します(2-1)。実務的には懲戒規定の整備がこれに当たります。カスハラの場合は行為者が社外の顧客等なので趣旨が変わり、あらかじめ定めたカスハラへの対処の内容(管理監督者への即時報告、一人で対応させない、録音・録画、悪質な場合の警察通報など)を労働者に周知することが求められます(2-2)。
3は求職者等セクハラだけの固有措置で、面談の時間・場所の指定、複数人での実施体制、やり取りに使うSNSの指定といった求職活動等に関するルールをあらかじめ定め、労働者と求職者等の双方に周知することです。
柱2:相談体制の整備(4〜5)
2つ目の柱は、相談を受け止める仕組みです。
4は相談窓口の設置と周知。担当者を定める、相談制度を設ける、外部機関に委託するなどの方法がありますが、指針は「窓口を形式的に設けるだけでは足りず、実質的な対応が可能な窓口であること」を求めています。面談だけでなく電話やメールなど複数の方法で受けられる工夫も必要です。求職者等セクハラでは、社外の求職者等に対してホームページ等で窓口を周知することまで求められる点が特徴です。
5は相談への適切な対応。ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するかどうか微妙な場合も含めて広く相談に応じることとされています。相談対応のマニュアル整備や担当者への研修が取組例です。相談者への二次被害の防止も「適切な対応」に含まれます。
柱3:事後の迅速かつ適切な対応(6〜10)
3つ目の柱は、実際に事案が起きたときの対応です。
6は事実関係の迅速かつ正確な確認。相談者と行為者の双方から確認し、主張が食い違う場合は第三者からも聴取します。カスハラとセクハラでは、行為者が他社の労働者である場合に、他の事業主へ事実確認の協力を求めることも含まれます。7は被害者への配慮の措置で、配置転換による引き離し、行為者の謝罪、労働条件上の不利益の回復、産業保健スタッフによるメンタルヘルス対応などです。8は行為者への措置で、懲戒規定に基づく処分等を行います(行為者が社外の者であるカスハラは対象外です)。9は再発防止措置で、方針の再周知や研修の再実施を行います。ハラスメントの事実が確認できなかった場合でも、同様の措置を講じることとされている点は見落としがちなので注意してください。
10はカスハラ固有の措置です。過度な要求を繰り返すなど特に悪質なケースへの対処方針をあらかじめ定めて労働者に周知し、実行できる体制を整備すること。警察への通報、警告文の発出、商品・サービス提供の拒否、出入り禁止、仮処分命令の申立てなどが対処の例として示されています。
柱4:併せて講ずべき措置(11〜12)と原因・背景の解消(13)
11は、相談者・行為者等のプライバシー保護です。性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療といった機微な個人情報も含めて保護する措置を講じ、その旨を周知します。12は、相談や事実確認への協力などを理由とする解雇その他の不利益取扱いをされない旨を定めて周知・啓発すること。安心して相談できる環境の土台になる措置です。
13は妊娠・出産等/育児・介護休業等ハラスメント固有の措置で、ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取り組みです。制度を利用する労働者の周囲に業務の偏りが生じると、それが不満となってハラスメントの温床になりかねません。業務分担の見直しや業務の効率化など、実情に応じた体制整備が求められています。
まずは自社の現状チェックから
13項目を前にすると身構えてしまいますが、就業規則の整備(1・2・12)、相談窓口の設置(4・5)、対応フローの明文化(6〜9)と分解していけば、多くの会社ですでに一部はできているはずです。この10月に向けては、既存のパワハラ・セクハラ対策の枠組みにカスハラ対応(2-2・10)と採用活動のルール(3)を追加する、という発想で点検するのが現実的だと思います。個別の規定整備や研修の進め方は会社の実情によって変わりますので、判断に迷うところがあれば専門家に相談するのも一つの方法です。私たち社会保険労務士事務所でも、こうしたご相談はよくお受けしています。





