役員退職金規程とは?その重要性と作成のポイントを徹底解説
会社の役員が退任する際に支給される役員退職慰労金は、長年の功労に報いる重要な報酬の一部です。しかし、その支給には従業員の退職金とは異なる複雑な要件があり、適切に準備されていないと、トラブルの原因となったり、税務上の不利益を被ったりする可能性があります。
この記事では、役員退職金規程の重要性、その作成と運用のポイント、そして関連する税務上の取り扱いについて詳しく解説します。

目次
役員退職金規程はなぜ必要?その目的とメリット
役員退職慰労金は、法的には役員に対する「報酬」の一種と位置付けられています。そのため、その支給については、会社法に基づき会社の定款に定めるか、株主総会の決議が必要です(会社法第361条、第387条)。
役員退職金規程を整備する主な目的とメリットは以下の通りです。
- 役員退職慰労金を支給しやすくする
- 規程を明確にしておくことで、株主からの納得が得られやすくなります。
- 株主総会で取締役会(監査役については監査役の協議)への一任決議を受けることが可能となり、スムーズな支給につながります。
- 特に死亡退職慰労金の場合、本来支給すべき遺族に確実に支給されるようにし、会社の運転資金等に流用される事態を防ぐ効果も期待できます。
- 役員退職慰労金の損金算入の否認を起きにくくする
- 役員退職慰労金は「適正額」までは損金算入が認められますが、それを超える金額は損金算入が認められません(法人税法第34条)。
- 規程がない場合、「役員としての従事期間」「退職事情」「同種の事業を営む類似規模の法人の支給状況」などに基づいて税務当局が「適正額」を判断します。
- 公正な算定根拠に基づいて制定された規程があれば、その金額が「適正額」の指標となるため、税務調査での損金算入否認のリスクを低減できます。
- 紛争やトラブルを未然に防ぐ
- 役員は株主や他の取締役の協力がなければ退職慰労金をもらえないことがあり、規程がないと支給時にトラブルが頻発する可能性があります。
- 明確な規程があれば、退職慰労金が支払われないケースや不当に減額されるケース(例えば、株主総会決議で否決される、問題を起こして解任されるなど)のリスクを軽減できます。
- 裁判例では、規程がないワンマン会社でも、実態に基づいて役員への退職慰労金の請求が認められるケースもありますが、事前に規程を整備しておくことが最も確実です。
役員退職金規程に盛り込むべき主な内容
役員退職金規程には、以下の項目を盛り込むことが一般的です。
- 目的:規程の目的を明記します。
- 適用範囲:どの役員に適用されるかを定めます。不利益な行為があった場合の減額・不支給の規定も重要です。
- 算定基準:具体的な計算方法を定めます。主要な方式は以下の通りです。
- 功績倍率方式:「退任時最終報酬月額 × 役員在任年数 × 役位別功績倍率」で計算します。一般的に、社長の功績倍率は3.0が上限と言われることもありますが、過去の判例ではそれ以上が認められたケースもあります。
- 役位別算出方式:役位ごとに退職金額を計算し、合計する方式です。
- 1年あたりの平均額方式:近隣の同規模・同業種の1年あたりの役位ごとの平均退職慰労金額を参考に決定します。
- 在任年数:1年を単位とし、1ヶ月未満の端数を切り上げるのが一般的です。
- 功績加算(功労金):特に功績顕著な役員に対して、算定額に一定割合を加算できる旨を規定します。
- 弔慰金:役員が死亡した場合に、死亡退職慰労金とは別に支給される弔慰金について定めます。相続税法上の非課税限度額は、業務上の死亡で「最終報酬月額 × 3年分」、業務外の死亡で「最終報酬月額 × 6ヶ月分」です。
- 支給時期および方法:原則として株主総会決議後1~3ヶ月以内とするケースが多いです。
- 死亡役員に対する退職慰労金等:遺族への支給順位を定めます。民法の法定相続人の順位を参考にしたり、役員自身が受取人を指定できるようにしたりすることも可能です。
- 生命保険契約の締結:役員退職慰労金の資金準備として生命保険を活用する旨を規定することができます。
- 使用人兼務役員の取り扱い:使用人兼務役員の使用人部分は従業員退職金規程に準じることを明記します。
- 規程の改定:改定権限を持つ機関(取締役会または株主総会)を定めます.
役員退職金規程の作成と支給の流れ
役員退職金規程を作成し、実際に役員退職慰労金を支給するまでの一般的な流れは以下の通りです。
- 「役員退職慰労金規程」案の作成
- 支給時のトラブルを防ぐため、算定基準を明確にすることが重要です。
- 支給対象者、支給時期、支給方法なども定めます。
- 取締役会での決定
- 作成した規程案を取締役会で決定し、取締役会議事録を作成します。
- 規程の内規としての保管
- 規程の内容は合理的である必要があり、株主が内容を知りうる状態にしておくことが望ましいです。
- 役員退任発生時の株主総会決議
- 役員退職慰労金の支給には株主総会の決議が必要です。
- 具体的な金額や支給方法を取締役会に一任する決議も可能です。この場合も、株主総会の決議を省略することはできません。
- 株主総会議事録を必ず作成・保管してください。議事録の保管は会社法で義務付けられており、怠ると過料が科される可能性があります。
- 取締役会での承認(株主総会で一任された場合)
- 規程に基づき、役員退職慰労金の金額、支給時期、支給方法などの具体的内容を決定し、取締役会議事録を作成します。同様に、取締役会議事録の作成・保管も義務です。
- 役員退職慰労金の支給
- 決定された内容に基づいて、役員退職慰労金を支給します。
役員退職金と税務
役員退職慰労金は、法人にとっても役員個人にとっても税務上の重要な影響があります。
法人側の経理処理
- 法人が役員に支給する退職慰労金は、適正額までは損金算入が認められます。
- 損金算入時期は、原則として株主総会等の決議により支給額が確定した事業年度ですが、実際に支給した事業年度で損金経理することも可能です。
- 「不相当に高額な部分」(適正額を超える金額)は損金不算入となります。税務調査では、この「適正額」が厳しくチェックされます。
役員本人・遺族等への課税
- 生存退職慰労金:役員本人が受け取った場合、退職所得として所得税(復興特別所得税を含む)と住民税が課税されます。
- 退職所得の金額は、「(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1/2」で計算されます。
- 退職所得控除額は、勤続20年までは「40万円 × 勤続年数(最低80万円)」、20年超は「800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)」です。勤続年数の端数(1年未満)は切り上げて計算されます。
- ただし、役員としての勤続年数が5年以下の「特定役員退職手当等」に該当する場合、上記の計算式の1/2計算は適用されません。
- また、役員以外の者が受け取る「短期退職手当等」(短期勤続年数5年以下)の場合、退職所得控除額を差し引いた額のうち300万円を超える部分には1/2計算が適用されません。
- 死亡退職慰労金:役員の死亡後3年以内に支給が確定したものは相続税の課税対象となります。相続人が受け取った場合、「500万円 × 法定相続人の数」が非課税限度額です。
- 死亡後3年を経過してから支給が確定したものは、遺族の一時所得として所得税の課税対象となります。
- 弔慰金:社会通念上相当な金額であれば法人側で福利厚生費として損金算入が認められます。遺族が受け取る弔慰金は、業務上の死亡で「最終報酬月額 × 3年分」、業務外の死亡で「最終報酬月額 × 6ヶ月分」までの金額が相続税非課税です。この非課税額を超える部分は役員退職慰労金とみなされ、相続税が課税されます。
まとめ
役員退職金規程の整備は、役員退職慰労金の円滑な支給、税務上のリスク回避、そして将来的な紛争防止のために不可欠です。適切な規程を作成し、それに従って運用することで、企業と役員双方にとって望ましい結果をもたらすことができます。
もし貴社に役員退職金規程がない場合は早急に準備し、すでにある場合も現状に即しているか定期的に見直すことを強くお勧めします。



