遺言書の作成は「未来への贈り物」~種類と重要性、知っておきたいポイント~
長い人生を歩んできた方が、ご自身の思いや財産を次の世代に伝えるために、遺言(ゆいごん・いごん)の重要性が説かれています。遺言書は、残されたご家族が相続手続きを円滑に進め、「争族」と呼ばれる家族間のトラブルを未然に防ぐための有効な手段です。
遺言者が「最後のメッセージ」を遺すという意味合いも持ち、ご自身の家族関係や状況を考慮して、適切な形で財産を承継させるために必要とされています。もし遺言がない場合、民法で定められた「法定相続」に従って遺産を分けることになりますが、その具体的な帰属を決めるためには相続人全員での遺産分割協議が必要となり、協議がまとまらない場合は家庭裁判所の調停や審判で解決することになり、争いが深刻化する事例も少なくありません。
特に以下のケースでは、遺言をしておく必要性が高いと言えるでしょう:
- 特定の財産を特定の相続人に承継させたいとき(例:不動産が共有になると将来の処分が困難になるため)。
- 身体に障害のある子や老後の面倒を見てくれた子に多く相続させたいとき。
- 可愛い孫に財産を残したいとき。
- 家業に必要な資産を特定の事業承継者に相続させ、他の相続人には代償金で公平を図りたいとき。
- 相続人が全くいない場合(遺産は国庫に帰属する可能性が高いため、お世話になった人への財産譲渡や寄付をしたいとき)。
- 若い人でも海外旅行前などに作成する例が増えており、予期せぬ事態に備えたいとき。
遺言は、ご本人が判断能力のある元気なうちに作成することが望ましいとされています。満15歳以上であればいつでも作成可能で、一度作成した後も、状況の変化や心境の変化に応じて、いつでも何回でも撤回や変更を自由に行うことができます。

遺言書の種類とそれぞれの特徴
遺言書には大きく分けて、自筆証書遺言、公正証書遺言、そして利用者は少ないですが秘密証書遺言の3種類があります。
1. 自筆証書遺言(自分で書く遺言書)
遺言者が遺言書の本文をすべて自分で手書きする遺言書です(ただし、2019年1月13日以降は財産目録のみパソコン等での作成や、預貯金通帳の写し・不動産の登記事項証明書などの資料の添付が可能となりました。その場合、各ページに署名と押印が必要です)。
- メリット:
- 費用がかからず、手軽に作成できる。
- 遺言の内容を自分以外に秘密にできる。
- 書き直しが容易.
- デメリット・注意点:
- 形式不備による無効のリスクが高い。例えば、日付が「〇月吉日」のように特定できない場合や、署名・押印がない場合は無効となります。
- 紛失、盗難、隠匿、改ざんのリスクがある。
- 遺言者の死後に発見されない可能性がある。
- 家庭裁判所での「検認(けんにん)」手続きが必要(ただし、法務局での保管制度を利用した場合は不要)。検認は遺言書の偽造・変造を防ぐための手続きで、勝手に開封すると過料が科される可能性があります。
【法務局における遺言書保管制度】 2020年7月10日から始まったこの制度を利用すると、自筆証書遺言のデメリットを軽減・解消できます。
- 形式ルールのチェックを受けられる。
- 法務局で原本が保管されるため、紛失や改ざんのリスクがない。
- 遺言者の死亡時、事前に指定した相続人等に遺言書の存在が通知される。
- 家庭裁判所での検認手続きが不要になる。
ただし、法務局では遺言の内容に関するアドバイスは行われません。また、申請手続きは遺言者本人が法務局に出向く必要があり、病気などで出向けない場合は利用できません。費用は1件につき3,900円の保管手数料がかかります。
2. 公正証書遺言(公証人が作成する遺言書)
公証役場で公証人と証人2名以上の立ち会いのもとで作成する遺言書です。
- メリット:
- 法律の専門家である公証人が作成するため、形式不備で無効になる可能性が低い。
- 公証役場で原本が厳重に保管されるため、紛失、隠匿、改ざんのリスクがない。
- 家庭裁判所での検認手続きが不要で、相続開始後速やかに内容を実現できる。
- 病気などで文字が書けない場合でも作成可能。
- 遺言者が公証役場に出向けない場合、公証人が自宅や病院などに出張して作成することも可能。
- 遺言情報管理システムにより、相続人等が遺言の有無を全国の公証役場で問い合わせ可能。
- デメリット・注意点:
- 証人2名が必要(未成年者や推定相続人、受遺者、その配偶者・直系血族は証人になれません)。
- 手数料がかかる(財産の価額に応じて政令で定められている)。
- 作成に手間と時間がかかる。
- 公証人や証人に遺言内容を話す必要がある。
遺言書作成時に考慮すべき重要なポイント
遺言書は単に財産を分けるだけでなく、トラブルを避けるための様々な工夫が可能です。
- 遺言能力:
- 遺言書は、遺言者が遺言の内容を理解し、その結果、自身の死後にどのようなことが起きるかを理解できる能力(遺言能力)を持っているときに有効です。
- 高齢や認知症であっても、遺言能力が肯定されることもありますが、裁判では遺言の内容の重要性や難しさ、遺言者の医学的要素(診断書、要介護認定など)、遺言前後の言動などを総合的に判断します。
- 一番の対策は、判断能力に疑義のないうちに遺言を書いておくことです。
- 予備的遺言:
- 遺言書で財産を渡す相手(受遺者)が、遺言者よりも先に、または同時に死亡した場合に備えて、次に財産を渡す相手をあらかじめ指定しておく条項です。
- この条項がないと、指定された受遺者が先に亡くなった場合、その部分の遺言は無効となり、改めて遺産分割協議が必要になってしまいます。
- 予備的遺言を記載しても、公正証書遺言の手数料は増えません。
- 遺留分:
- 遺言者の配偶者、子、直系尊属(親・祖父母)には、最低限相続できる財産の割合である「遺留分」が法律で認められています。兄弟姉妹には遺留分はありません。
- 遺言書の内容が遺留分を侵害していても直ちに無効にはなりませんが, 遺留分を侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」として金銭の支払いを請求することができます。
- 相続トラブルの元になる可能性があるため、遺言書作成時にはこの遺留分に配慮して検討することをお勧めします。
- 遺言執行者:
- 遺言執行者とは、遺言者が亡くなった後、遺言の内容を実現するために手続きをする人です。
- 財産目録の作成、預貯金の払い戻し、不動産の名義変更など、様々な煩雑な事務作業を代行してくれます。
- 遺言執行者がいると、遺産の名義変更などの作業がスムーズに進み、相続人の負担を軽減できるという大きなメリットがあります。
- 子どもの認知や相続人の廃除・取消しは遺言執行者にしかできない行為とされています。
- 遺言で指定することもできますし、相続発生後に家庭裁判所に選任を申し立てることも可能です。
- 祭祀承継者:
- お墓や仏壇、位牌、家系図などの祭祀財産は、通常の相続財産とは区別され、相続税の課税対象にはなりません。
- 祭祀財産を承継する人を祭祀承継者といい、被相続人が遺言や口頭で指定することが可能です。指定がない場合は慣習に従い、それでも不明な場合は家庭裁判所が定めます。
- 祭祀承継者は相続人である必要はなく、内縁の妻など相続人以外の人も指定できます。
- 祭祀承継者に指定された者は、その承継を放棄したり辞退したりすることは原則としてできません。
- お墓の管理や法要の費用負担など、祭祀承継者には役割が伴います。
専門家への相談
遺言書の作成や相続手続きは複雑な場合が多く、ご自身で進めることに不安を感じることもあるでしょう。弁護士、司法書士、行政書士、税理士といった法律や税務の専門家に相談することで、以下のようなメリットがあります。
- 法的に有効な遺言書の作成をサポートしてもらえる。
- 遺言内容について法的観点からアドバイスを得られる。
- 相続財産の正確な把握や相続税対策についても相談できる。
- 遺言書の作成から執行まで、一貫したサポートを依頼できる。
- 万が一、相続トラブルが生じた場合でも対応してくれる。
多くの専門家が初回無料相談を受け付けていますので、まずはお気軽にご相談してください。




