難民認定制度の「濫用」と2023年・2024年の入管法改正:制度の適正化と人道保護
日本の難民認定制度は、長年にわたりその運用や実効性について議論の的となってきました。特に、「制度の濫用(悪用)」と、これに対処するための入管法(出入国管理及び難民認定法)改正は、日本の外国人受け入れ政策を理解する上で避けて通れないテーマです。
本記事では、難民認定制度の濫用問題の実態、それに対応する2023年・2024年の入管法改正の主要な柱、そして残された課題について解説します。

目次
1. 難民認定制度の濫用問題と「送還忌避者」の増加
日本の入管法は、日本への入国や出国の管理、在留資格、不法滞在、そして難民の認定手続きなどを定めた法律です。難民認定制度は、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由とする迫害から逃れてきた人々を保護するための国際条約に基づく仕組みです。
制度濫用を助長した背景
難民ではないにもかかわらず、日本での就労や在留継続を主たる目的として難民認定制度を申請・悪用する人々は「偽装難民」と呼ばれます。
この問題が深刻化したきっかけの一つは、2010年3月に、難民申請から6か月が経過すれば原則として就労が許可されるという運用が開始されたことです。これにより、観光目的の「短期滞在」や「留学」、「技能実習」で来日した外国人が、在留資格を失った後も日本での就労を目的に難民申請を繰り返すケースが急増しました。
これに対し、法務省は2018年1月15日に運用を見直し、難民条約上の難民に明らかに該当しない申請者(D案件など)については、たとえ初回申請者であっても就労を制限する措置を講じました。例えば、技能実習生が実習先から失踪したり、技能実習計画を終了した後に申請を行った場合、原則として就労は許可されなくなりました。
「送還停止効」の悪用と「送還忌避者」の増加
旧法下では、難民認定を申請中の外国人は、申請の回数や理由を問わず、また、殺人等の重大な犯罪を犯した者やテロリストであっても、認定審査が終了するまで一律に本国への強制送還が停止される「送還停止効」が定められていました。
この規定を悪用し、退去強制が確定した後も難民申請を繰り返すことで送還を拒否する者、すなわち「送還忌避者」の存在が大きな問題となりました。
- 入管庁によると、送還忌避者の数は、2021年12月末時点で3,224人、2022年12月末時点の速報値では4,233人にまで増加しています。
- 2021年12月末時点で、送還忌避者3,224人のうち、1,133人が前科を有していました。
- 難民認定申請者全体のうち、過去に申請を行ったことがある複数回申請者は、2024年の申請者12,373人中1,355人(約11.0%)でした。このうち、3回目の申請者は204人でした。
送還忌避者が退去を拒否し続けた結果、入管施設での長期収容問題が発生し、人権上の課題としても指摘されていました。
2. 2023年改正入管法(令和5年法)の三つの柱
送還忌避問題、長期収容問題、そして真の難民保護という課題の一体的解決を図るため、2023年6月9日に改正入管法が成立し、2024年6月10日までに段階的に施行されました。
改正法の基本的な考え方は、以下の三つを柱としています。
- 保護すべき者を確実に保護する。
- 在留が認められない外国人は、速やかに退去させる(送還忌避問題の解決)。
- 長期収容を解消し、適切な処遇を実施するための規定を整備する(収容を巡る諸問題の解決)。
(1) 送還停止効の例外規定の創設(濫用防止策の核心)
濫用防止と送還忌避問題の解決策として、難民認定手続中でも退去強制手続きを進めることが可能となる送還停止効の例外規定が創設されました。これは、2024年6月10日に施行されています。
例外規定の対象となるのは以下の者です。
- 3回目以降の難民認定申請者。
- 3年以上の実刑に処された者。
- テロリスト等。
ただし、3回目以降の難民認定申請者であっても、難民や補完的保護対象者と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出した場合は、送還は停止されます。
この例外規定の施行後、2024年6月から12月までの間に、この規定を適用して送還された人数は19人であり、そのうち17人が3回目以降の難民認定申請者でした。
(2) 補完的保護対象者認定制度の創設
難民条約上の難民の定義(迫害理由が5つの事由に限られる)には該当しないものの、紛争避難民など国際的な保護を必要とする者を保護するための補完的保護対象者認定制度が新設されました。この制度は2023年12月1日から開始されています。
補完的保護対象者と認定された者には、原則として「定住者」の在留資格が付与されます。2024年(令和6年)には、ウクライナ人などから合計1,661人が補完的保護対象者として認定されました。
(3) 収容に代わる監理措置制度の創設
長期収容問題の解消を目的として、収容に代わる措置として監理措置制度が導入されました。これは、親族や知人などの「監理人」のもとで生活させつつ、退去強制手続きを進めるものです。
監理措置制度の創設に伴い、被収容者については3か月ごとに収容の要否が必須的に見直される仕組みも導入されました。
3. 難民認定制度の適正化をめざす2024年入管法改正
難民認定制度の濫用の一因である就労目的の申請に対処するため、労働力受け入れ制度の抜本的な見直しが、2024年6月14日に成立・公布された改正法(令和6年法)のメインテーマとなりました。
(1) 技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設
国内外から人権侵害や失踪問題などが批判されていた技能実習制度が廃止され、人材育成と人手不足解消を目的とした新たな在留資格「育成就労」が創設されます。
(2) 不法就労助長罪の厳罰化
育成就労制度の導入に伴い、外国人の転職の自由が条件付きで認められることで、悪質なブローカーが転籍を助長するリスクへの対策として、不法就労助長罪の罰則が厳罰化されました。
- 改正前:拘禁刑3年以下または罰金300万円以下。
- 改正後:拘禁刑5年以下または罰金500万円以下(併科可)に引き上げられました。
4. 濫用防止策と人権保護のバランス
近年の入管法改正は、難民認定制度の適正化を図り、長年の課題であった送還忌避や長期収容の解消を目指すものです。特に3回目以降の申請者に対する送還停止効の例外適用は、制度の悪用を抑制する効果が期待されます。
ただし、真に保護すべき者を確実に保護するため、今後、3回目以降の申請者が提出する「相当の理由がある資料」の審査における公平性や透明性の確保、そして難民調査官の調査能力の向上など、難民認定制度の運用の見直しが継続的に求められています。



