「国保逃れ」の正体と限界
最近、日本維新の会の地方議員が関わっていたことで注目を集めた「国保逃れ」。これは、高額な国民健康保険料(国保)を回避するために、一般社団法人などの役員(法人代表や理事)という“肩書”を利用して社会保険(健康保険・厚生年金)に加入し、保険料負担を大幅に軽減する手法です。「マイクロ法人」を設立し、あえて役員報酬を低額に設定して社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することも含まれます。
しかし、この問題は一部の政治家に限った話ではなく、氷山の一角に過ぎません。
「公然の節税策」
実際、士業の中には、自らマイクロ法人を立ち上げ、収入の一部を法人で受け取ることで社会保険料を削減している人が数多く存在します。また、民間事業者に対しても、有効な節税対策として指導が行われているのが実態です。私自身も、顧客の要望に応じてこのスキームを案内することがあり、声を大にして特定の議員を批判できる立場にはありません。
このスキームが成立するのは、現行制度において「法人の役員が社会保険に加入できるかどうか」の判断基準が、労働時間や報酬といった明確な基準ではなく、極めて曖昧であるためです。
社会保険加入を左右する「実態判断」の基準
本来、法人の役員が社会保険の被保険者資格を取得するには、法人との間に「常用的使用関係」があることが条件となります。厚生労働省の疑義照会回答(No. 2010-77)によれば、その判断は、業務が実態として法人の経営参画を内容とする経常的な労務提供であり、かつ、その報酬が経常的に支払われるものであるかを基準とすべきとされています 。
具体的には、以下の6つの材料を総合的に勘案して判断することとされています 。
- 定期的な出勤状況: 当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか
- 兼職の有無: 当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか
- 会議への参画: 当該法人の役員会等に出席しているかどうか
- 指揮監督の実績: 役員への連絡調整や、職員に対する指揮監督に従事しているかどうか
- 役割の主導性: 求めに応じて意見を述べるだけの立場にとどまっていないかどうか
- 報酬の妥当性: 報酬が社会通念上労務の内容に相応したものであって、実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか
ただし、これらはあくまで「例」として示されているものであり、最終的にはそれぞれの事案ごとに実態を踏まえて判断されます 。
制度の限界と求められる抜本的改革
現場の実感として、役員が「常勤」であるか「非常勤」であるかを客観的に判別するのは非常に難しく、運用の恣意性を排除しきれていません。
そもそも、現在の社会保険料の計算に用いられている「標準報酬月額」の仕組みは、かつての給与計算や事務処理の簡便化を目的としたものであり、現代の多様な働き方や節税スキームの前では時代遅れと言わざるを得ません。
- 所得ベースの徴収へ:月々の報酬額で判断するのではなく、年間の総収入や所得に応じて課税・徴収する仕組みへの転換が必要です。これにより、故意に月額報酬を低く抑えるといった操作を防ぐことが可能になります。
- 倫理観に頼らない制度設計:すでに広く知れ渡っている節税スキームを、個人の高い倫理観のみで食い止めることは不可能です。
社会保障の公平性を守るためには、より透明性の高い所得捕捉と徴収体制の構築が必要ではないでしょうか。




