年次有給休暇:第4回 実務上の留意点と取得促進のための活用策

最終回となる今回は、年休制度を運用する上で避けて通れない実務上の重要論点、特に「時季変更権の適切な行使」や、積極的な取得促進策である「計画的付与制度」の活用方法、そして「基準日」や「年休の買い取り」に関する注意点について解説します。


1. 時季変更権の行使

年次有給休暇は、原則として労働者が請求する時季に与えなければなりません。しかし、労働者から請求された時季に休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、使用者は他の時季に年次有給休暇の時季を変更させることができます。これが時季変更権です。

時季変更権を行使するための条件

時季変更権は、以下の要素を総合的に判断して行使できるか否かが決まります。

  1. 事業所の規模、業務内容、当該労働者の職務の性質
  2. 職務の繁閑代替要員の確保の難しさ
  3. 同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、その全員に付与し難い場合

単に「慢性的に人手不足だから」という漠然とした理由や「繁忙期だから」という理由のみでは認められない可能性が高いです。例えば、当該労働者しか行えない業務があり、その期日が目前に迫っている場合や、代替人員の確保が明らかに困難な場合に限られます。

行使の注意点

  • 迅速な行使:時季変更権は、有給休暇取得の申請があった際、速やかに行使しなければなりません。
  • 労働者への配慮:行使に当たっては、変更の必要性を明確に説明し、労働者の希望に沿った別の時季となるよう努めることが大切です。
  • 行使できないケース:労働者が退職する場合、残りの期間で時季変更が不可能な場合(年休が時効で消滅するなど)には、時季変更権を行使できません。

2. 年次有給休暇の計画的付与制度

年次有給休暇の取得を促進し、業務の計画的な運営を可能にするために有効なのが、計画的付与制度です。

制度の概要とメリット

この制度は、年次有給休暇の付与日数のうち、労働者が自由に使える最低5日を除いた残りの日数について、労使協定を締結することにより、計画的に休暇取得日を割り振る仕組みです。

  • 使用者側のメリット労務管理がしやすく、計画的な業務運営が可能になります。
  • 労働者側のメリット:事前に休暇日が決まるため、ためらいを感じることなく年休を取得できます
  • 法定義務との関係:計画的付与制度で取得させた年休は、年5日の確実な取得義務の日数にカウントされます

導入に必要な手続き

計画的付与制度を導入するためには、以下の2つの手続きが必須です。

  1. 就業規則による規定:就業規則に、計画的付与について定める必要があります。
  2. 労使協定の締結:労働者の過半数で組織する労働組合または過半数代表者との間で、書面による協定(労使協定)を締結します。この労使協定は、労働基準監督署への届出は不要です。

労使協定では、計画的付与の対象者の範囲(例:育児休業中や定年退職予定者を除く)や、対象となる年休の日数(5日を超える部分)、具体的な付与方法などを定める必要があります。

3. 計画的付与の具体的な方式

企業や事業場の実態に合わせ、主に以下の3つの方式で計画的付与が活用されています。

  1. 一斉付与方式全従業員に対して同一の日に年休を付与します。製造業など、操業を止めて全従業員を休ませることができる事業場で活用されます。夏季や年末年始に計画的付与を組み合わせて大型連休とする方法で多く活用されます。
  2. 班・グループ別の交替制付与方式班やグループ別に交替で年休を付与する方式です。流通・サービス業など、定休日を増やすことが難しい企業で活用されます。
  3. 個人別付与方式年次有給休暇付与計画表などを用いて、労働者個人別に休暇日を指定します。例えば、閑散期に取得を促す方法 や、労働者本人の誕生日や結婚記念日などを指定するアニバーサリー休暇として活用できます。また、土日や祝日の合間に年休を充てて連休とするブリッジホリデーとして活用することもできます。

4. 前倒し付与の場合の基準日

新入社員の入社時に年休を前倒しで付与するなど、法定の基準日(雇入れから6か月後)より前に年休を付与する場合、年5日取得義務の基準日(起算日)が変わるため注意が必要です。

基準日の考え方

  • 10日以上の前倒し付与:法定の基準日より前倒しで10日以上の年休を付与した場合、その付与日(前倒し付与日)から1年以内に5日の取得義務が発生します。
    • 例:入社日(4/1)に10日付与した場合、4/1から翌年3/31までの1年間に5日取得させる義務が生じます
  • 一部前倒し付与:付与日数の合計が10日に達した日を基準日として、その日から1年以内に5日取得させる義務が発生します。
    • 例:入社日(4/1)に5日、3か月後(7/1)に5日を付与した場合、合計10日に達した7/1が基準日となり、7/1から1年間に5日取得させる義務が生じます
    • この場合、10日に達した日(7/1)以前に、労働者が自ら前倒し分(4/1付与分)を取得していた場合は、その取得日数分は5日から控除されます。
  • 基準日の統一(比例按分):基準日を全社で統一するなど、結果的に5日取得義務の履行期間に重複が生じる場合は、重複が生じるそれぞれの期間を通じた期間(前の期間の始期から後の期間の終期までの期間)の長さに応じて比例按分した日数を当該期間に取得させることが認められています。

5. 年休の買い取り

年次有給休暇の買い取りは、原則として法的に認められていません。これは、労働者に心身の健康維持のための休息を確保させるという、年次有給休暇制度の趣旨に反するためです。

ただし、以下の例外的なケースに限り、買い取りが認められています。

  1. 退職時に残っている未消化分:退職が決定し、時季変更権の行使も不可能となったため、結果として取得できなかった日数分。この場合、買い取り額は給与ではなく賞与(退職金)として扱われます。
  2. 法定の日数を超えて会社が独自に付与した日数:労働基準法で定められた最低付与日数(法定日数)を上回る部分(上乗せ分)。
  3. 時効(2年)を迎え消滅した日数:時効により消滅した年休の権利。

これらの例外的な買い取りを行う場合は、事前に就業規則や書面で条件を明確にし、労働者との間で合意を得ておくことが、後日のトラブル防止のために非常に重要です。


4回にわたり、年次有給休暇に関する基礎知識から、年5日取得義務化への実務対応、そして取得促進策まで解説してまいりました。年休の適切な管理と取得促進は、法令遵守だけでなく、労働者の健康維持、エンゲージメント向上、そして企業の生産性向上に直結します。