帰化申請の厳格化とミャンマー国籍者の帰化について

厳格化が進む帰化審査と増加するミャンマー人申請者

2025年現在、日本における帰化申請の審査は、過去数年と比べて一層厳格化が進んでいます。法務局は、申請者の「生活基盤の安定性」「素行要件」、そして「日本語能力」について、従来以上に踏み込んだ確認を行う傾向にあります。単に形式的な要件を満たすだけでなく、それを裏付ける証明力の高い資料と、申請者の誠実な姿勢の裏付けが不可欠となっています。

一方で、日本で暮らすミャンマー国民の数は2023年時点で8万6,546人に達し、1年間で約3万人も増加しています。軍事クーデターによる本国の不安定な情勢を受け、日本国籍の取得を強く希望される方が増えている状況です。

帰化審査における厳格化傾向

帰化申請は、法務大臣の裁量による手続きであり、審査内容は多岐にわたりますが、特に以下の3点が厳しく監査されています。

1. 素行要件の徹底強化:交通違反と社会保険料の審査

素行要件とは、日本社会における法令遵守の姿勢を評価するものであり、「誠実性」が最も重視されます。

  • 社会保険料と税金の完納: 住民税、所得税、社会保険料などの納付状況が確認されますが、近年、健康保険料の支払い状況も新たに審査対象に追加されました。過去に滞納歴がある場合は、たとえ完納済みであっても、法務局から滞納理由の説明が求められるなど、経緯の誠実な説明が必要です。
  • 交通違反歴の厳格化: 軽微な交通違反(駐車違反、一時不停止など)であっても、直近2年間で3回以上ある場合、不許可となる可能性が非常に高いとされています。過去の違反歴を申請書に「違反なし」と虚偽申告した場合、「虚偽申告」と判断され不許可となる原因となります。

2. 生計要件の安定性証明の強化

日本で自立した生活を継続できる経済基盤があるか、という生計要件の審査も厳格化しています。

  • 収入の目安: 単身世帯の場合、月々の手取りで18万円、年収で250万円から300万円程度が一つの目安とされています。
  • 就労の継続性: 転職直後や非正規雇用の場合は、特に安定性について詳細な裏付けが求められます。収入が目安に達しない場合でも、貯金通帳のコピーや家族からの生活補助証明などの証明力の高い追加資料を初回から添付(先出し)することで、審査の円滑化と期間短縮につながる事例もあります。

3. 政策レベルの要件変更リスク

さらに、政府内では、帰化が参政権を付与する点などを踏まえ、居住要件を現行の5年から永住許可と同様の10年以上に延長する案が議論されています。この法改正リスクを回避するためには、現行の要件を満たした時点で速やかに申請を進めることが、戦略的に重要となります。

ミャンマー国民の帰化申請が直面する特有の問題

ミャンマー国民が帰化申請を行う際、日本の一般的な厳格化要件に加え、本国の事情に起因する特有の課題が存在します。

1. 本国書類の取得難易度と代替措置

帰化申請には、IDカードや出生証明書、親族関係証明書(ファミリーリスト)など、ミャンマー本国から取得しなければならない公的書類が必須です。

しかし、ミャンマー国内の行政状況や、クーデターによる内戦状態により、これらの公的書類を迅速かつ正確に取得することが困難なケースが多く発生しています。

親族関係証明書に兄弟姉妹の記載がない場合は、個別の出生証明書や死亡証明書が追加で必要になるなど、書類収集が複雑化するリスクもあります。本国書類がどうしても取得できない場合は、その取得不能理由を説明する上申書を作成し、提出する必要があります。

2. 外国語書類の翻訳と厳格な認証要求

ミャンマーから取得した外国語の書類は、必ず日本語への翻訳が必要です。この翻訳書類の真正性を確保するため、単なる翻訳証明書だけでなく公証人による認証、特に翻訳者自身が公証人の面前で署名を行う「面前認証」を要求されることもあるようです。

3. 日本語能力と在留資格の注意点

ミャンマー語は日本語と文法・構文が似ているため、日本語を早く習得される方が多く、帰化申請の日本語テストで有利になる側面があります。帰化の日本語能力要件は、日常生活に支障のない程度の会話や読み書き(小学校2年生レベル、目安として日本語能力試験N3程度)が求められます。

一方で、ミャンマー国籍の方には、緊急救済措置として付与された「特定活動」や「特定技能1号」の在留資格で在留している方が多く見られますが、これらの在留期間は、帰化の居住条件(継続して5年以上)に含まれないため、注意が必要です。

ご案内

2025年現在、帰化申請は審査の厳格化と政策的な要件変更リスクが同時に進行する中で、極めて慎重かつ計画的な準備が求められています。特にミャンマー国民の場合、本国書類の取得難易度や複雑な認証手続きといった固有の課題をクリアすることが、許可への鍵となります。

帰化申請は、100枚以上の書類が必要となる長期的な手続きであり、不許可となれば時間と労力を大幅に失うことになります。

確実かつスムーズに日本国籍を取得するためには、複雑な行政実務とミャンマー特有の書類対応に精通した専門家によるサポートが不可欠です。

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