米国TPS終了が在日ミャンマー人の「特定活動」に与える影響

2025年11月、米国政府がミャンマー国民に対する一時保護資格(TPS: Temporary Protected Status)の終了を発表しました。この決定は、日本で「特定活動」の在留資格を持つミャンマー人コミュニティに、今後の在留資格の行方に対する大きな懸念を投げかけています。

ここでは、米国のTPS終了の背景と、日本の「特定活動」の運用実態、そして今後の展望について解説します。


1. 米国によるミャンマーTPS終了の決定とその根拠

米国国土安全保障省(DHS)長官クリスティ・ノーム氏は、2025年11月24日、ミャンマー(ビルマ)に対するTPS指定を終了すると発表しました。この終了は、2026年1月26日をもって発効します。

DHSが主張する「状況改善」の根拠

長官は、ミャンマーがTPSの指定条件を維持しなくなったと判断し、その根拠として、以下の「統治と安定」における顕著な進展を挙げました。

  • 非常事態宣言の終了。
  • 自由で公正な選挙の計画(2025年12月および2026年1月に予定)。
  • 成功裏に締結された停戦合意。
  • 公共サービス提供の改善に貢献する、地方統治の進展。

長官は、これらの改善によりミャンマー国民は「安全に帰国できる」状況になったとし、TPSの継続は米国の国益に反すると判断しました。

国際社会・人権団体からの強い批判

しかし、この米国の決定は、現地の実態や他の米国政府機関の認識と著しく矛盾しているとして、国際社会や人権団体から強い非難を受けています。

  • 国連特別報告者の非難: 国連ミャンマー人権状況特別報告者トム・アンドリュース氏は、TPS終了決定を「人権への攻撃」であり、ミャンマーの危機的状況を無視した「残酷なフィクション」に基づいていると非難しました。
  • 内戦と人権侵害: ミャンマーでは現在も内戦状態が続いており、軍事政権は民間人への暴力や拷問、強制徴兵を激化させています。
  • 米政府内の矛盾: 米国務省は、自国民に対してミャンマーへの「渡航禁止(Do not travel)」レベル4の勧告を維持しており、TPS終了決定は、この危険情報と決定的に食い違っています。

2. 日本における「特定活動」緊急避難措置の現状と問題点

日本の出入国在留管理庁は、2021年2月1日のクーデター以降のミャンマー情勢の不安定化を受け、本邦での在留を希望するミャンマー人に対し、緊急避難措置として、在留や就労を認める「特定活動」を条件付きで付与しています。

この措置は「ミャンマー特活」とも呼ばれ、難民認定の妥当性に関わらず、情勢を考慮して一定の就労を許可し、原則として最長1年間(更新可)の在留を認めるものです。2025年6月末時点で、在日ミャンマー人は16万人を超え、そのうち約2割がこの「特定活動」の在留資格で滞在しています。

措置の「誤用・濫用」と審査の厳格化

この「特定活動」の緊急避難措置は、一部で誤用・濫用されている事例が散見され、問題視されてきました。

  1. 失踪と在留資格変更: 2023年に失踪したミャンマー人技能実習生1,765人のうち、1,739人が失踪後に「特定活動」へ在留資格を変更していました。
  2. 目的外就労: 多くの者が、斡旋業者などの手引きにより「1年・就労可」の特定活動を取得し、賃金の高い都市部の外食やコンビニなど、技能実習の対象外の業種で就労を掛け持ちする例が多く見受けられていました。

このような状況を受け、日本政府は、2024年10月1日以降、技能実習を修了せずに特定活動への変更を希望するミャンマー人について、その取扱いを変更し、審査を厳格化する対策を講じています。

3. TPS終了が日本の「特定活動」に与える影響と今後の展望

米国政府が TPS を終了し、ミャンマーの情勢が「安全に帰国できる」ほど改善したと公式に発表した事実は、日本が継続している「緊急避難措置」の前提に影響を与える可能性があります。

出入国管理庁は在留ミャンマー人への緊急避難措置の要件として、「ミャンマーにおける情勢が改善されていないと認められる場合には、在留期間更新許可申請を経て許可を受けて在留を継続することが可能」としていますが、米国の「状況改善」という判断が、今後、日本政府の情勢評価にどのように作用するかが焦点となります。

特定活動への変更審査が既に厳格化されている中、もし緊急避難措置の基準自体が将来的に見直されることになれば、約4,000人 のTPS受益者が米国で直面するであろう国外退去の危機と同様に、日本で特定活動を持つミャンマー人も、難民認定や他の合法的な在留資格への移行をより一層強く迫られることになります。

米国のTPS終了は、「嵐が過ぎ去ったから、緊急避難所にいる人々は自宅に戻るべきだ」という宣言です。しかし、実際には依然として内戦の「強風」が吹き荒れているという現実があり、日本は、自国で避難を認めている人々に対し、いつまで「緊急避難措置」という名の雨宿りを許し続けるのか、という難しい判断を迫られている状況と言えます。