平均賃金の基礎知識と労災補償給付の計算方法について

今回は、労働者の生活を守る上で非常に重要な「平均賃金」について、その計算方法や使われる場面、特に労災補償における役割まで解説します。

平均賃金って何?なぜ重要?

平均賃金は、労働基準法(以下「労基法」)に定められた概念で、労働者の生活を保障する目的で、各種手当や補償、減給制裁の制限額などを算定するための基準となる金額です。これは、労働者の「通常の生活賃金」をありのままに算定することを基本原則としています。

平均賃金が使われる主な場面

平均賃金は、様々な状況でその算出が求められます。主なケースは以下の通りです:

  • 解雇予告手当(労基法第20条):企業が労働者を解雇する際、少なくとも30日前に予告をしない場合に支払われる手当です。この場合、最低でも平均賃金の30日分以上が支払われます。
  • 休業手当(労基法第26条):会社の都合(使用者の責めに帰すべき事由)で従業員を休業させた場合に支払われる手当で、1日につき平均賃金の60%以上が義務付けられています。これはパートタイマーなどの非正規従業員も対象です。
  • 年次有給休暇中の賃金(労基法第39条6項):従業員が有給休暇を取得した際の賃金算定基準の一つです。
  • 災害補償(労基法第76条~82条):労働者が業務上または通勤中に負傷・疾病にかかったり死亡したりした場合に支払われる休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料などの算定基礎となります。これらの労災保険給付の基礎となる給付基礎日額も、原則として平均賃金に相当する額とされています。
  • 減給の制裁の限度額(労基法第91条):労働者への減給制裁の際に、1回の減給額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、また、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない、といった制限が設けられています。
  • 転換手当(じん肺法第22条):じん肺管理区分に基づいて作業転換が行われた場合に支給される手当で、平均賃金の30日分または60日分が支給されます。

これらのケースで適切に平均賃金を算定し、支払うことは、労働者の生活安定のために不可欠です。

平均賃金の基本的な計算方法

平均賃金の計算は、原則として以下の式で行われます:

平均賃金 = 算定すべき事由の発生した日以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額 ÷ その期間の総日数(暦日数)

いくつかの重要な注意点を見ていきましょう。

1. 算定期間と起算日

  • 原則として、「算定すべき事由の発生した日以前3ヶ月間」の賃金が対象です。
  • ただし、賃金締切日が定められている場合は、直前の賃金締切日が起算日となります。事由発生日は含めず、その前日から遡って3ヶ月間を計算します。
  • 例えば、6月10日に解雇された場合で、賃金締切日が毎月20日であれば、直前の賃金締切日である5月20日が起算日となり、そこから遡って3ヶ月間が算定期間となります。
  • 入社後3ヶ月に満たない労働者の場合は、雇入れ後の期間で計算します。ただし、雇入れ後ごく短い期間(2週間未満や雇入れ当日)に事由が発生した場合は、都道府県労働局長が平均賃金を決定することもあります。

2. 「賃金の総額」に含めるもの・含めないもの

「賃金の総額」には、名称にかかわらず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべての賃金が含まれます。

  • 含むもの: 基本給はもちろん、家族手当、通勤手当、残業代(割増賃金、時間外手当)、精皆勤手当、年次有給休暇の賃金、昼食料補助など、毎月変動する手当もすべて含まれます。賃金の支払いが遅れている場合は、未払い賃金も算入されます。また、6ヶ月分の通勤定期券代のようにまとめて支給される手当も、1ヶ月ごとに支払われたものとみなし賃金総額に含めます。
  • 含まないもの: 以下の3種類の賃金は算入されません。
    • 臨時に支払われた賃金:退職金、結婚手当、私傷病手当、加療見舞金など、臨時的・突発的な事由で支払われるもの、または支給条件はあらかじめ確定しているが支給事由の発生が非常にまれなもの。
    • 3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金:賞与(ボーナス)など。ただし、あらかじめ支給額が確定している年俸制の賞与部分は、算定基礎に含めなければなりません。
    • 通貨以外のもので支払われた賃金で、法令または労働協約で定められていないもの

3. 「総日数」と控除期間

  • 「総日数」は、暦日数を指し、休日や欠勤日も含まれます。
  • ただし、特定の期間は、その日数と期間中の賃金が「総日数」と「賃金総額」から除外されます。これは、これらの期間の賃金がなかったり低額だったりすることで、平均賃金が労働者の通常の生活費用と比べて不当に低くなるのを防ぐためです。
    • 業務上負傷・疾病による療養のための休業期間
    • 産前産後休業期間
    • 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
    • 育児・介護休業期間
    • 試用期間(ただし、試用期間中に平均賃金算定事由が生じた場合は算入)
    • 正当な争議行為による休業期間

4. 平均賃金の最低保障

賃金が日給制、時間給制、出来高払制(請負制)の場合、労働日数が少ないと原則的な計算方法では平均賃金が極端に低くなる可能性があります。このような事態を防ぐため、最低保障額が定められています。

  • 最低保障額は、算定期間中の賃金総額をその期間の「労働日数」で除した金額の60%です。
  • もし原則的な計算で算出された平均賃金が、この最低保障額を下回る場合、最低保障額が平均賃金として適用されます
  • 特に欠勤控除の多い日給月給制の場合、欠勤しなかった場合に受けるべき賃金の総額をその期間の所定労働日数で除した額の60%が最低限度と解釈されます。

5. 端数処理のルール

平均賃金の計算で1銭未満の端数が出た場合、切り捨てることができます。

6. 日々雇い入れられる者の平均賃金

日々雇い入れられる労働者(日雇労働者)は、勤務状況の変動が大きいため、通常の労働者とは異なる方法で平均賃金が算定されます。原則として、本人に同一事業場で1ヶ月間に支払われた賃金総額をその期間の総労働日数で除した金額の73%が平均賃金となります。

労災補償給付を計算する際の平均賃金

労働者が業務上または通勤中に負傷・疾病に見舞われた場合、労災保険から各種給付が行われます。これらの給付額を算定する上で中心となるのが「給付基礎日額」です。

1. 給付基礎日額と平均賃金

  • 給付基礎日額は、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額を指します。
  • しかし、厳密には平均賃金と給付基礎日額が一致しない場合があります。例えば、労災年金や、療養開始後1年6ヶ月を経過した後の休業補償給付には、被災当時の賃金水準と支給時点の賃金水準を平準化するためのスライド制や、年齢階層別の最低・最高限度額が適用されることがあります。

2. 休業補償給付の具体的な計算

労災による負傷や疾病の療養のため労働ができない場合、休業補償給付が支給されます。

  • 支給額: 休業1日につき、給付基礎日額の80%が支給されます。この80%の内訳は、休業(補償)給付が60%で、休業特別支給金が20%です。
  • 待機期間: 休業の初日から3日目までは待機期間とされ、この期間は労災保険からの給付はなく、事業主が労基法の規定に基づき平均賃金の60%以上の休業補償を行うことになります。
  • 一部労働の場合: 所定労働時間の一部のみ働いた日については、その日の給付基礎日額から実際に支払われた賃金を除いた額の80%が支給されます。

具体例: 月給20万円、賃金締切日が毎月末日で、10月に事故が発生した場合の休業補償給付を計算してみましょう。

  1. 給付基礎日額の計算: 直前3ヶ月間(7月31日、8月31日、9月30日)の暦日数は合計92日です。 給付基礎日額 = 20万円 × 3ヶ月 ÷ 92日 ≒ 6,521円73銭。 給付基礎日額は1円未満の端数を切り上げるため、6,522円となります。
  2. 休業補償給付の計算(休業4日目以降、1日あたり):
    • 休業(補償)給付(60%)= 6,522円 × 0.6 = 3,913円20銭 → 3,913円(1円未満切り捨て)。
    • 休業特別支給金(20%)= 6,522円 × 0.2 = 1,304円40銭 → 1,304円(1円未満切り捨て)。
    • 合計支給額 = 3,913円 + 1,304円 = 5,217円

つまり、このケースでは休業4日目以降、1日あたり5,217円が労災保険から支給されることになります。

まとめ

平均賃金は、労働者の生活を保障するための重要な基準であり、様々な労働法上の給付や制限に影響します。その計算方法は、算定期間、賃金に含めるもの・含めないもの、総日数、そして最低保障といった複数のルールに基づいて行われます。特に労災補償においては、「給付基礎日額」としてその重要性が高く、正確な理解が求められます。